飛鳥山動物病院

03-5980-9149 〒114-0024 東京都北区西ヶ原3丁目64-15

飼い主様の〝想い〟に寄り添う

当院は、「明日の笑顔を守る場所」をモットーに、
飼い主様の〝想い〟に寄り添う医療を大切にしています。
想いに寄り添う医療とはどんな医療か、
そして、そう思い至るようになったのはなぜなのか。
そんなことを飼い主様お一人お一人に自分の言葉でお伝えできればと思い、
書かせていただきました。
長文ですが、お読みいただけましたら幸いです。
愛猫の看取りに「後悔」

私が獣医なりたての頃、勤務先に猫が運び込まれました。
交通事故にあったのか、全身ボロボロの若い外猫ちゃん、
後足1本が再建困難で、やむなく「断脚」となりましたが
幸いに命をとりとめました。

その後ぐんぐん回復し、3本の足で駆け回る程元気に。
しかし、「事故で足がない」せいか、なかなか里親は見つからず、
縁もあって、我が家に迎え入れることになりました。
名前は「アイシャ(アイちゃん)」、三毛猫の女の子です。

当時独身で、一人さびしく過ごしていた私。
急に始まったアイちゃんとの「二人暮らし」は、
とてもとても、きらきら充実していました。
愛くるしくて、だっこされるのが大好きな、甘え上手なアイちゃん。
ふかふかの毛布で、私と添い寝するのが一番のお気に入りでした。
どんなに仕事が遅くなっても、窓辺でいつまでも帰りを待っていてくれて
そんな健気な姿にも、毎度心が温まったものです。

そんなすばらしい生活は、ある日突然の病気で崩れ去ります。
急にご飯を食べず、何度も吐くようになったアイちゃん。
なんで?あんなに元気だったのに??

慌てて勤務先に連れて行き、検査したところ
「尿管損傷による水腎症 急性腎不全」
もともと事故で全身を激しく損傷していた子です。
尿路も損傷していたのでしょう。(保護直後の検査では異常無しでした)
時間が経過し、尿管の異常も併発、重篤な腎不全となってしまったのです。

助かるのなら、なんでもする!そのために、俺は獣医になったんだ!
そう思い、できうる医療をすべてアイちゃんに施しました。
レントゲン(消化管造影、尿管造影)、エコー、血液検査を何度も実施。
血管から点滴し、鼻にカテーテルを入れ、酸素室で集中管理。
それでも改善がないため、万が一の奇跡にかけて手術もしました。
奇跡的に手術後に目を覚ましたものの、
改善はなく、腎機能はさらにさらに悪化していました。

できることは尽き、もういつ急変してもおかしくない状態。
苦しがるアイちゃんを、なでてあげたくても、
酸素室を開けると、もっと苦しくなるのです。
だっこも、添い寝もしてあげられません。
あとはICUのガラス越しに我が子を見つめるしかない。
ドア越しに、そばで見ているしかできない。無力でした。

やがて、ICUの中で呼吸がとまり、
アイちゃんはそのまま天に召されました。
急に嘔吐し始めて、わずか3日目のことでした。

亡くなった後は、後悔の日々です。
なんで、もっと早く異常に気付いてあげられなかったのか。
なんで、最期の時をこんなに苦しめてしまったのか。
苦しい我が子、バリウムを飲ませ、鼻にカテーテルをいれ、ICUに押し込み…
あんなに治療で苦しめる必要があったのだろうか?
果ては、ICU の中で、たった一人で旅立たせてしまった。
大好きだった抱っこも、ふかふか毛布の添い寝も、してあげられなかった。
後悔と無念で、食事も喉が通らない日々が続きました。

助けたい一心で、医療的なベストは尽くせました。
しかしそれは、私にも、私の猫にも最善の方法ではなく、
むしろ、自分で自分の愛猫を苦しめ、旅立たせる結果を招いてしまったのです。

その子らしさを尊重した医療へ

このアイちゃんの一件から、
飼い主様との対話と姿勢が少し変わりました。

「医療的なベストが、この子のベストとは限らないんです」
「この子が一番好きだったことはなんですか?
 生きる喜びを尊重しながら治療するには、どのような項目が必要ですか?」
そんな風に、ご家族と話し合い、いっしょに悩むことにしたのです。

日向ぼっこできる家の縁側
おばあちゃんと眠れるお布団
いつもこっそりお父さんからもらえるオヤツ
風が気持ちいい河原のお散歩

そういった、彼らの「生きがい」を大切にし、
今までの生活を尊重した医療を、模索することにしました。

このような「患者の生きがい、思い出、物語(narrative)」に基づく医療を
NBM (Narrative-based Medicine 患者との対話に基づく医療)と言います。

NBMを意識することで、病気の動物とご家族の雰囲気が変わりました。
動物たちの表情にすこし余裕が生まれました。
そして、闘病管理中のご家族も、笑顔と安心が見られるようになったのです。

これが、「思いに寄り添う医療」の効果だ!と確信した瞬間でした。

飼い主様の不安と想いに寄り添う

かわいい家族(動物さん)が急な病気になったら…パニックです。
実際私も、かわいいアイちゃんが急性腎不全とわかると、
もうどうしたらいいのか…混乱とパニックの連続でした。

そして、多くの飼い主様が、
そんな究極の精神状態で、方針の選択を迫られることがほとんどです。

入院するのか、連れて帰るのか?
リスクのある手術をするのか、しないのか?
副作用のつよい薬を使うのか、使わないのか?

すぐに選べるはずもなく、ただとにかく助けてほしくて、
その場の先生に判断を委ねる。
すると、すべてが「担当獣医師のさじ加減一つ」になってしまうのです。

だからこそ、せめて私が担当した飼い主様には、
そのご不安に「寄り添い」、少しでも安心して、治療を選んでいただきたい。
そのための指針が「その子らしさの尊重」であり、
「その子の生きる喜び」を基軸とした判断なのではないかと、
私は思っています。

すべての飼い主様、そして動物さんたちが、
明日も明後日も、笑顔でいてもらいたい。それが私たちの願いです。

そのために、「想いに寄り添う医療」を、これからも常に心がけていきます。

飛鳥山動物病院 代表 川口悠爾